レモが まだ
いまより ずっと
ちいさかったころのことです。
レモは
パパの クロンが ふく
クロマチックハーモニカが
だいすきでした。
きれいで、
ていねいで、
すっと のびていくような おとです。
でも それと おなじくらい、
おじいちゃんの ふく
トレモロハーモニカも
だいすきでした。
おじいちゃんの おとは、
やさしくて、
すきとおっていて、
ふわっと ひろがっていきます。
しずかなのに、
さびしくありません。
やわらかいのに、
ちゃんと こころに
とどきます。
レモは
その おとを きくたびに、
むねの なかが
すうっと するのでした。
あるひ、
レモは おじいちゃんの
おちゃの おしごとに
ついていきました。
そのときです。
ぴょこん。
ちゃばたけの すみで、
なにかが
ちいさく うごきました。
レモが しゃがんで
よく みると、
そこに いたのは
ちいさな
トレモロの おまめさんでした。
おまめさんは、
おかの こどもだけに みえると
いわれている、
ハーモニカの せいれい です。
まるっこくて、
ちょこんとしていて、
きらきら ゆれていました。
レモが
「あ……」
と おもったときには、
おまめさんは
ぴょん、と はねて
もう いなくなっていました。
でも レモの むねは、
ぽっと あたたかく
なっていました。
あるひ、
レモは いえの なかで、
クロンと いっしょに
しずかに すわっていました。
すると――
おくの へやの ほうから、
トレモロハーモニカの おとが
きこえてきました。
やさしくて、
すうっと のびて、
でも しっかり
ひびく おとでした。
レモは
おしゃべりを やめて、
その おとに
みみを すませました。
クロンも
なにも いわずに、
いっしょに きいていました。
おじいちゃんの おとは、
いえの なかを
ゆっくり すすんで、
レモの むねまで
やってくるみたいでした。
レモは
なんだか うれしくなって、
そっと えがおに なりました。
やがて おとが
すうっと やみました。
レモは
クロンを みあげて、
ぽつりと いいました。
「おじいちゃんの おと、
すき」
クロンは
やさしく うなずきました。
「うん。
いい おとだね」
レモは
しばらく だまって、
その おとの きえていった ほうを
みていました。
それから
ぽつりと いいました。
「わたしも
トレモロを ふきたいな」
クロンは
すこしも おどろいた かおをせず、
しずかに うなずきました。
「そうか」
そして
レモの かおを みながら、
やさしく いいました。
「レモは
おじいちゃんの トレモロが
だいすきだもんな」
レモは
そのことばを きいて、
なんだか うれしくなって
うなずきました。
「うん」
そのとき レモは、
まえに みた
トレモロの おまめさんのことを
ふと おもいだしました。
クロンは
しずかに わらって、
こう いいました。
「レモの おとに
なるのかもしれないね」
そのことばは、
まるで
ずっと まえから
そうなることを
しっていたみたいに
しずかでした。
それから レモは、
トレモロを ふくように なりました。
おじいちゃんと おなじ
トレモロです。
でも、
レモの おとは
ちゃんと レモの おとでした。
やさしくて、
みんなの おとを よく きいて、
ふわっと まざりながら、
ちゃんと ここにいると
わかる おとでした。
その おとは、
きれいで、
でも どこか
なつかしい おとでした。
フクさんは
うれしそうに
めを ほそめました。
クロンも
しずかに わらっていました。
ダンマリヶ丘の かぜのなかで、
そのひ
レモの トレモロが
はじめて
ほんとうに
レモの おととして
なりはじめたのでした。


コメント