ダンマリヶ丘のハーモニカ吹きたち【第25話】クララがおかにやってきた

きょうは、
クララが くるひ。

ジュウスケが
おかに しょうたいしたのです。

カタラズの きの したに、
ジュウスケが
たっていました。

かみが
ぴしっと
よこわけに なっています。

なぜか
メガネまで
かけて、
ちょうネクタイまで
しています。

しかも
その てには
むずかしそうな がくふ。

どうやら、
クララに あわせて
きちんとした ひとに
みえるように、

おかでは しっかりもので
ゆうめいな
クロンを
まねしているようです。

ジュウスケは
すました かおで
たっていました。

通りかかった
おかの ひとたちは、

いつもと ちがう
ジュウスケをみて、

ふしぎそうな
かおを していました。

やがて
やくそくの じかん。

かぜの きもちいい
ひるさがりに、
クララが
おかを のぼってきました。

よこわけ。
メガネ。
ちょうネクタイ。
がくふ。
そして
むりに しずかな かお。

クララは
その すがたをみて、
ちょっとだけ
あしを とめました。

「……あれ?」

ジュウスケは
すました かおで
たっていました。

クララは
もういちど みて、
いいました。

「ジュ、ジュウスケくん……
だよね?」

ジュウスケは
メガネを くいっと あげて、
こたえました。

「そうだけど」

クララは
まばたきをしてから、
すこし わらって
いいました。

「そ、そうだよね。
きょうは おまねき
ありがとうね」

ジュウスケは
メガネを くいっと
なおして、
すました かおで
いいました。

「まあな」

でも
ほんとうは、
むねの なかが
どきどき していました。

クララは
ジュウスケの よこへきて、
おかの うえを
みわたしました。

「ほんとうに
いい ところね」

「だろ?」

ジュウスケは
ちょっとだけ
いつもの こえに
もどっていました。

そのとき、
むこうから
レモが てを ふって
やってきました。

「ジュっちゃん、
その かみ どうしたの♪」

「べ、べつに」

レモは
ジュウスケの かおをみて、
それから
クララをみて、
なにか わかったように
くすっと わらいました。

そこへ
クロンも
やってきました。

いつものように
きちんとした ふくで、
いつものように
しずかな かおです。

クララは
ちいさく
「こんにちは」
と おじぎをしました。

クロンも
「こんにちは」
と ていねいに
おじぎを しました。

クロンは、
ジュウスケの すがたを
ちらっと みました。

「……ジュウスケ」

「なんだよ」

「その すがたは……」

ジュウスケは
いいました。

「みりゃ わかるだろ。
きょうの おれは
こんな きぶんなんだよ」

クロンは
しばらく
だまっていました。

それから
がくふを ちらっとみて、
いいました。

「ちなみに それ、
さかさまです」

ジュウスケは
あわてて
がくふを もちなおしました。

「わざとだし」

ジュウスケは
いいました。

「じゃあ
いろいろ みせてやるよ」

クララは
うれしそうに
うなずきました。

「うん」

それから
ジュウスケは
クララを つれて、
おかを
あんないして あるきました。

カタラズの きの
すこし むこうでは、

おかの ひとたちが
ふたりずつ
ならんで、

ハーモニカを
ふいていました。

ひとりが
ちいさく
メロディを ふくと、

もうひとりが
そっと
こたえます。

べつの ところでは、
ひくい おとに
たかい おとが
ふわっと のりました。

また べつの ところでは、
みじかい リズムに
ちがう リズムが
ぽん、と かさなりました。

クララは
しばらく
だまって
きいていました。

「いまのは、
れんしゅう?」

ジュウスケは
くびを ふりました。

「ともジャムだよ」

「ともジャム?」

「このおかの
あいさつみたいなもんだよ」

「ともだちどうしで、
ちょっと ふいて、
ちょっと こたえる。
そういう あそび」

クララは
ふしぎそうに
おかの ひとたちを
みました。

「ピアノでいう、
れんだん みたいなもの?」

ジュウスケは
すこし かんがえてから、
いいました。

「まあ、
そんなような、
ちがうような」

クララは
くすっと わらいました。

「でも、
たのしそう」

ジュウスケは
うれしそうに
いいました。

「だろ?」

しぃちゃんの おみせでは、
クララが
おちゃを のみました。

「おいしい……」

そういって
にこっと わらうと、

ぐうぐう ねている
しぃちゃんをみて、
すこしだけ
ふしぎそうな かおを しました。

モカさんの こうぼうも
けんがくに いきました。

モカさんが
しゅうりを する よこで、
ヂムが
きりっとした かおで
クララをみていました。

そして
ちいさな あかい
ミニハーモニカを かまえて、

ぷう。
ぴょ。
ぷぴー。

と ふきました。

クララは
おもわず わらいました。

「かわいい」

ヂムは
ちょっとだけ
とくいそうな かおに
なりました。

ジュウスケは
なんだか
うれしくなって、
つい
せすじを のばしました。

それで
メガネを
もういちど
くいっと
なおしたのでした。

そして とうとう、
じぶんの ばんが
きたと おもいました。

「じゃあ……
おれも いっこ
ふくよ」

ジュウスケは
メガネを
くいっと なおしました。

それから
がくふを ちらっとみて、
ハーモニカを
かまえました。

ジュウスケが
ふきはじめたのは、
エリーゼのために
でした。

たしかに
あの きょくです。

でも――

すこし すると、

ぐにゃ。

ぎゅいん。

ぷわあ。

いろんな ところで
ベンドが はいります。

てぃらり。
ぐにゃあ。
りん……ぎゅわん。
たららら……ぷわお。

クララは
めを まるくして
きいていました。

ジュウスケが
ふきおわると、
クララは
すこしだけ
まばたきをしました。

それから
いいました。

「ジュウスケくんは、
なにを ふいても
ジュウスケくんだね」

ジュウスケは
きょとんと しました。

「?」

クララは
にこっと わらって
つづけました。

「わたし、
その おと、
すきよ」

ジュウスケの メガネが

キラン✨

と ひかりました。

「へへ」

ジュウスケは
とても まんぞくそうです。

クララは
もういちど
おかの うえを
みわたしました。

カタラズの き。
ちゃばたけ。
しぃちゃんの おみせ。
モカさんの こうぼう。

そして、
おかの あちこちから
きこえてくる
ハーモニカの おと。

クララは
すこしだけ
さびしそうに
わらいました。

「ジュウスケくんの いうとおり、
ほんとうに
すてきな ところね」

「みんな、
こころから
おんがくを
たのしんでいるのね」

ジュウスケは
ちょっと とくいそうに
うなずきました。

「だろ?」

クララは
しばらく
おかを みていました。

それから、
ちいさく いいました。

「わたしも、
こんな ところで
ピアノを ひいてみたいな」

ジュウスケは
クララを みました。

クララは
すこしだけ
さびしそうな かおに
なりました。

「でもね、
わたし、こんど
とおい くにへ
ピアノの べんきょうに
いくの」

ジュウスケは
まばたきしました。

「……え?」

「だから、
しばらく
ダンマリヶ丘には
こられないと おもう」

クララは
そういって、
すこしだけ
わらいました。

「でも、
きょう こられて よかった。
ジュウスケくんの おとも
きけたし」

ジュウスケは
しばらく
なにも いえませんでした。

それから、
しぼりだすように
やっと
ちいさく いいました。

「……そうか。
がんばれよ」

クララは
ジュウスケを みました。

それから、
にこっと わらいました。

「うん。
ありがとう」

クララは
みんなに
てを ふって、
さかを おりていきました。

ジュウスケは
その うしろすがたを
しばらく
みていました。

しばらく、
かぜの おとだけが
していました。

それから、
ジュウスケは
いきなり
おおきな こえで
いいました。

「いつか また こいよー!」

クララは
ふりかえりました。

ジュウスケは
すこしだけ
てれくさそうに、

でも、
いつもの こえで
つづけました。

「そしたら、
ともジャム しような!」

クララは
ぱっと わらいました。

「うん!」

クララは
もういちど
てを ふって、
さかを おりていきました。

ジュウスケは
だまって
メガネを はずしました。

そして、
ぴしっと よこわけにした かみを
くしゃくしゃっと
てで なおしました。

クロンも、
レモも、
バンスも、
ヂムも、

だれも
ジュウスケに
こえを かけませんでした。

「おれ、
ちょっと さきに
かえるわ」

ジュウスケは
みんなに せを むけて、
ひとりで
あるいていきました。

しばらくして、
そのひの ゆうがた、

ジュウスケの
たましいの ブルースが
おかじゅうに
ひびきました。

それは、
もう みえなくなった
クララに
とどくような おとでした。

みんなは
なにも いわずに
その おとを
きいていました。

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