ダンマリヶ丘のハーモニカ吹きたち【第24話】ジュウスケまちへいく

あるひ、
ジュウスケは
おかの そとへ
でかけました。

「たまには まちでも
ふいてみるか」

そう いったものの、
ほんとうは
ちょっとだけ
どきどきしていました。

ダンマリヶ丘では、
だれかが ふけば
だれかが きいています。

でも まちでは、
だれも きいてくれないかも
しれません。

ジュウスケは
えきの ちかくの
すみっこに たって、
ハーモニカを
かまえました。

ひとつ
いきを すって、
ふきました。

ぐにゃ。
ぎゅいん。
ぷわあ。

いつもの
ジュウスケの ブルースです。

さいしょは
だれも とまりません。

ひとが
とおっていきます。
じてんしゃも
すうっと すぎていきます。

ジュウスケは
すこしだけ
はずかしく なりました。

「……やっぱ
かえろうかな」

そう おもった
そのときです。

ちいさな くつの おとが
ぴたりと とまりました。

ジュウスケが
ちらっと みると、
ひとりの しょうじょが
そこに たっていました。

ながい かみ。
きれいな ふく。
せなかには
がくふの はいった
かばんを しょっています。

しょうじょは
まっすぐに
ジュウスケを
みていました。

ジュウスケは
とつぜん
きんちょうして、
すこしだけ
きりっとした かおに
なりました。

それから
もう ひとふし
ふきました。

ぐいん。
ぱらら。
ぷわあ。

ふきおわると、
しょうじょが
いいました。

「……はじめて きいたわ」

ジュウスケは
まばたきしました。

「え?」

「そういう おと、
わたし
はじめて きいた」

しょうじょは
そういって、
すこしだけ
ふしぎそうに
わらいました。

「あなた、
なんていう がっきを
ふいているの?」

「ブルースハーモニカ」

ジュウスケは
ちょっとだけ
いばった こえで
いいました。

「ブルース……」

しょうじょは
その ことばを
ちいさく
くりかえしました。

「わたし、
ピアノを ひいているの。
クラシックばかりだから、
こんなおと
ぜんぜん しらなかった」

ジュウスケは
なんだか
うれしく なりました。

「へえ。
ピアノ ひくのか」

「うん」

しょうじょは
すこし わらって、
いいました。

「わたし、クララ」

ジュウスケは
いっしゅんだけ
こころの なかで

くらら。


くりかえしました。

なんだか
まちの おとが
すこしだけ
きれいに きこえました。

それから
あわてて
じぶんの むねを
ゆびさして
いいました。

「お、おれは
ジュウスケ」

クララは
うなずきました。

「ジュウスケくん」

じぶんの なまえが
そんなふうに
よばれたのは、
なんだか
はじめてみたいな
きがしました。

クララは
ジュウスケの
ハーモニカをみて、
いいました。

「ブルースって、
もっと こわいものかと
おもってた」

「こわい?」

「うん。
なんだか
おとなの おとって
かんじがして」

ジュウスケは
へへっと わらいました。

「まあ、
そういうのも あるけどな」

クララは
また
ジュウスケの おとを
おもいだすみたいに
いいました。

「でも さっきのは、
なんだか じゆうだった」

ジュウスケは
その ことばを きいて、
ちょっとだけ
てれました。

ほんとうは
どきどきしていたのに、
そんなことは ない ふりをして
いいました。

「まあな」

クララは
くすっと わらいました。

それから ふたりは、
すこしだけ
はなしを しました。

ジュウスケは
ダンマリヶ丘の ことを
はなしました。

おおきな きの したで
れんしゅうしている
ストンパーズの こと。

どっしり している
バンスの こと。

きちんと している
クロンの こと。

やさしくて、
みんなの おとを
よく きいている
レモの こと。

モカさんの こうぼうの こと。
タッチャンの おみせの こと。
ちいさな ヂムの ことも
はなしました。

クララは
たのしそうに
きいていました。

「なんだか
すてきな ところね」

その ことばに、
ジュウスケの むねは
どくんと しました。

「……だろ?」

「いってみたいな」

ジュウスケは
いっしゅん、
じぶんの みみを
うたがいました。

「え?」

「その おか。
いろんな ハーモニカの おと、
きいてみたい」

ジュウスケは
ぱっと
せすじを のばしました。

「じゃ、じゃあ
こいよ」

クララは
にこっと わらって
いいました。

「ほんと?」

「おう。
おれが あんないしてやる」

クララは
うれしそうに
うなずきました。

「じゃあ
こんど、いくわ」

それから
クララは
てを ふって
かえっていきました。

ジュウスケは
しばらく
その うしろすがたを
みていました。

そして
だれも いなくなってから、
ひとりで
ちいさく いいました。

「……クララ か」

でも
その つぎには、
もう べつのことを
かんがえていました。

ピアノを ひく クララ。
クラシックの おと。
すました かお。
がくふ。
ちてきな かんじ。

ジュウスケは
ちょっとだけ
くちを むすびました。

「……なるほど」

なにが
なるほど なのかは、
じぶんでも
よく わかっていません。

でも
ダンマリヶ丘へ かえる みちで、
ジュウスケは
なんだか いつもより
しずかでした。

そして
ときどき

てぃらり。
てぃらり。

と、
きいたことのあるような
ないような
クラシックみたいな おとを、
へんな かおで
まねしていたのでした。

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