ダンマリヶ丘のハーモニカ吹きたち【第20話】トリオ・ザ・ブンチャス

ダンマリヶ丘のハーモニカ吹きたち

トリオ・ザ・ブンチャスが、
はじめて ダンマリヶ丘に
やってきました。

ブルースの チャボ。
バスの ブンタ。
トレモロの スー。

3にんは、
どんな きょくでも
ブンチャの リズムで えんそうする
バンドです。

ブン。
チャ。
ブン。
チャ。

3にんは、
この リズムが
だいすきでした。

ブン。
チャ。
ブン。
チャ。

それだけで、
なんだか からだが
うごきだしそうに なるからです。

ロックでも。
ジャズでも。
クラシックでも。

3にんは、
なんでも この リズムで
えんそうしました。

でも――

はじめての ツアーでは、
いろいろな まちを
まわりました。

ブンチャスの えんそうを
たのしんでくれる まちも
ありました。

でも、
どの まちでも
かならず
きこえてくる こえが
ありました。

「おれたちの 音楽とは
なんか ちがうなあ」

「ききなれた かんじとは
ちがうね」

「ほんものじゃ
ないんだよね」

「どの きょくも
ブンチャに
なっちゃうんだなあ」

ブンタたちは、
その こえが
どうしても
きになってしまいました。

ほんとうは、
ブンチャの リズムが
だいすきです。

でも だんだん、
それを すきだと
いうことまで、
なんだか
はずかしく なってきました。

そして きょうは、
ツアーの さいしゅうび。

ハーモニカふきが
たくさん いることで ゆうめいな、
ダンマリヶ丘での えんそうです。

けれど 3にんは、
ちっとも げんきが ありませんでした。

「……また
おなじだって
いわれるかなあ」

ブンタが
ぽつりと いいました。

おちょうしものの
チャボも、
きょうは わらっていません。

いつも えがおの
スーも、
ハーモニカを もったまま
しずかでした。

ダンマリヶ丘に つくと、
おかの かぜが
さらさらと
ちゃばたけを ゆらしていました。

そのひの えんそうを、
おかの ひとたちが
みにきています。

ストンパーズの メンバーも
みにきています。

ジュウスケ。
クロン。
レモ。
バンス。

モカさんは、
すこし はなれた ところで
ヂムを だいて いました。

「こんにちは」

ブンタたちが
ちいさく あいさつすると、

ジュウスケは
にかっと わらって
いいました。

「おー!
きたきた!
トリオ・ザ・ブンチャス!」

チャボは
ちょっとだけ
びっくりしました。

バカに されたような
いいかたでは
なかったからです。

クロンも
ていねいに
おじぎを しました。

「おうわさは
きいています」

レモは
きらきらした めで
3にんを みています。

バンスは
なんだか もう
うれしそうです。

でも ブンタたちは、
まだ すこしだけ
こわかったのでした。

やがて、
3にんは
みんなの まえに ならびました。

ブンタが
バスハーモニカを かまえます。

チャボと スーも、
じぶんの ハーモニカを
もって ならびました。

ブンタは
みんなを みないで、
ちいさく いいました。

「……いくぞ」

そして――

ブン。
チャ。
ブン。
チャ。

えんそうが
はじまりました。

それは
たしかに、
どこから きいても
ブンチャスの おとでした。

ブン。
チャ。
ブン。
チャ。

シンプルな リズムです。

でも――

ジュウスケの あしが、
いつのまにか
とん、とん、と
うごいていました。

レモの からだも、
すこしずつ
ゆれていました。

ヂムも、
モカさんの うでの なかで
ゆらゆら しています。

クロンは
めを ぱちくりさせて、
しばらく
だまって きいていました。

ブン。
チャ。
ブン。
チャ。

ほんとうに
それだけなのに、

おとが
まえへ まえへと
やってくるのです。

うしろから
おされるような、
でも
ひっぱられるような、
ふしぎな きもちよさでした。

ジュウスケが
おもわず いいました。

「なんだ これ……」

レモも
めを まるくして
いいました。

「シンプルなのに、
からだが
かってに うごいちゃう」

バンスは
にこにこしながら、
だまって
くびで リズムを とっています。

クロンは
やがて
ちいさく いいました。

「これは…」

えんそうが おわると、
おかの かぜが
さらさらと
ながれました。

しばらく、
だれも ことばを
いいませんでした。

ブンタたちは
その しずけさが
こわく なりました。

やっぱり――
と おもったのです。

そのとき、
ジュウスケが
いちばん さいしょに
さけびました。

「うわあ!
なんだよ それ!
すげえ かっこいいじゃん!」

ブンタは
ぽかんと しました。

チャボも、
スーも、
きょとんと しています。

レモが
うれしそうに
いいました。

「ちゃんと
どの きょくも
ブンチャスの おとに
なってたね」

クロンも
めがねを なおしながら、
しずかに いいました。

「……これは
すごい グルーヴですね」

ジュウスケが
ふりむきました。

「グルーヴって いうのか、これ!」

クロンは
まじめな かおで
うなずきました。

「ええ。
シンプルなのに、
からだが かってに
うごいてしまうんです。

あたまで きると
おなじに きこえるのに、
からだで きくと
ぜんぜん ちがう。

これは――
ちゃんと
ブンチャスの おとです」

レモも
にこっとして
いいました。

「うん。
まねしようとしても、
こうは ならないと おもう」

バンスは
にこにこしたまま
おおきく うなずきました。

「ブンチャ、
いいねえ」

モカさんも、
ヂムを だいたまま
ちいさく わらいました。

「おれ、
そんなバンド
はじめて きいたよ」

それから
すこしだけ
まじめな かおで、
こう いいました。

「でも
なにを やっても
じぶんたちの おとに なるって、
すごいことだよ」

ブンタは、
そのことばを きいて
しばらく
うごけませんでした。

いままで ずっと、

また おなじだ。
ききなれた かんじと ちがう。
自分たちの 音楽とは ちがう。

そう いわれてきたからです。

でも ここでは、
だれも
わらいませんでした。

だれも
いつもの ものさしで
きりませんでした。

みんな、
ほんとうに
おとを きいてくれていたのです。

そのとき、
スーが
ぽつりと いいました。

「……あたしたち、
この リズム
すきだったよね」

チャボが
ちいさく わらいました。

「うん。
おれ、
ほんとは
だいすきだった」

ブンタも、
ちょっとだけ
したを むいてから、
やっと うなずきました。

「おれもだ」

ヂムが
その よこで、
きりっとした かおで
ミニハーモニカを かまえました。

そして――

ぷう。
ぴょ。
ぷぴー。

ぜんぜん
ブンチャでは ありません。

でも、
なんだか
とても うれしそうでした。

みんなは
おもわず
わらってしまいました。

ブンタも。
チャボも。
スーも。

さっきまでの
しょんぼりした かおが、
もう ありません。

ジュウスケが
おおごえで いいました。

「アンコール!
アンコール!」

レモも
うれしそうに
てを たたきました。

バンスも
にこにこしながら
うなずいています。

おかの ひとたちも、
ぽつり ぽつりと
いいました。

「もういっかい ききたいねえ」

「ブンチャス、
もう いっきょく♪」

ブンタたちは、
かおを みあわせました。

さっきまでの
しょんぼりした かおは、
もう ありません。

ブンタが
ちいさく わらいました。

チャボも
にやっと しました。

スーは
まっすぐ うなずきました。

そして 3にんは、
もういちど
みんなの まえに ならびました。

こんどは
だれも うつむいて いません。

ブン。
チャ。
ブン。
チャ。

さっきよりも
もっと じしんのある おとが、
ダンマリヶ丘に
ひびきました。

おかの かぜも、
なんだか

ブンチャ。
ブンチャ。

と ふいている
みたいでした。

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