あるひ、
ジュウスケが
トレモロハーモニカを もって、
フクさんの ところへ
やってきました。
フクさんは
すこし めを まるくして
いいました。
「おお。
ジュウスケ、
めずらしいのを
もってるな」
ジュウスケは
ちょっと てれたように
わらいました。
「うん。
ハーモニカまつりの
くじびきで
あたったんだ♪」
その そばには、
レモも いました。
レモは
トレモロを もった ジュウスケをみて、
くすっと わらいました。
「なんか
にあわないね」
ジュウスケは
「そんなこと いうなよ」
と いいました。
でも じぶんでも
すこし おかしくて、
わらってしまいました。
それから
ジュウスケは
トレモロを ちょっと みせるようにして
いいました。
「それでさ。
うちで ふいてみたんだけど、
なんか へんなんだ」
「フクさんや レモみたいに、
きれいな トレモロが
でないんだよ」
ちょうど そのとき、
レモが となりで
トレモロを ふきました。
ふわあ。
すうっ。
きらら……
やさしくて、
すきとおった おとでした。
つづいて フクさんが
ふきました。
すう……
ふわあ……
とおくまで
まっすぐ のびていくような、
きれいな トレモロでした。
ジュウスケは
その おとを きいて、
やっぱり という かおをしました。
「ほら。
そういう おとだよ」
それから
じぶんの トレモロを かまえて、
ふいてみました。
ぶおっ。
「あれ?」
おとが、
ひとつに つぶれて
きこえました。
もういちど ふくと、
こんどは
わんわんわんわん……
トレモロが
へんに ふえすぎて、
おとが おちつきません。
ジュウスケは
しかめっつらで
いいました。
「……なんでだ?」
「フクさんや レモみたいに
ならないぞ」
フクさんは
ジュウスケの てもとをみて、
しずかに いいました。
「ジュウスケ。
トレモロはな、
ちからまかせに ふけば
いいってもんじゃない」
ジュウスケは
「え?」
という かおをしました。
フクさんは
トレモロを もって、
そっと つづけました。
「この がっきはな、
2まいの リードが
きもちよく ふるえる
ところが あるんだ」
「そこへ
いきを すうっと
とおしてやるんだよ」
「むりに おせば、
おとが つぶれる」
「はずれると、
こんどは ゆれすぎる」
「2まいが
しぜんに ふるえる ところ。
そこを さがすんだ」
ジュウスケは
ちょっと まじめな かおに
なりました。
それから
ぽつりと いいました。
「じゃあ、
おれの ふきかたじゃ
だめってことか」
フクさんは
すぐに
くびを ふりました。
「ちがう」
「おまえが
ブルースを ふくときは、
おまえの ふきかたで いいんだ」
「ぐいっと まげて、
ぐっと せめて、
あれは
ジュウスケの おとだ」
「でもな。
トレモロには
トレモロの
きもちいい ばしょが ある」
ジュウスケは
その ことばを
だまって きいていました。
それから
少し あんしんしたような かおで
わらいました。
そして
フクさんの いうように、
いちおんだけ、
そっと ふいてみました。
ふわぁん……
わん……
それは、
ブルースのように
ぐいっと まがる おとでは
ありませんでした。
かっこよく
とびだす おとでも
ありませんでした。
ただ、
いちおんだけです。
でも、
その おとは
ジュウスケの からだの なかに
しばらく
のこりました。
ジュウスケは
トレモロを みて、
すこし ふしぎそうに
いいました。
「……いまの、
なんか
きもちよかったな」
フクさんは
なにも いわずに、
ちいさく うなずきました。
レモも
にこっと
わらいました。
かぜが
ちゃばたけを
さらさらと
とおっていきました。
その みどりの はっぱも、
2まいの リードみたいに、
そっと
そっと
ふるえていました。

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