あるひ、
モカさんの こうぼうに
ひとりの
おとこのこが
やってきました。
テンです。
ほっそりした からだで、
すこし
せなかを
まるめています。
ながい まえがみが
めに かかって、
その すきまから
モカさんを
みていました。
テンは
ジュウスケの
おさななじみ。
ジュウスケと おなじ、
ブルースハーモニカを
ふいています。
でも、
ふたりの おとは
ぜんぜん
ちがいます。
ジュウスケの おとは、
ぐにゃ。
ぎゅいん。
ぷわあ。
ベンドで
おとを
ぐいっと まげて、
おおきく、
ちからづよく
ふきます。
テンの おとは、
すうっ。
ほう。
ひゅいん。
やさしい いきで、
するすると
おとを
つないでいきます。
ときどき、
ブルースハーモニカに
ない
むずかしい おとも
すっと
まざります。
とても
せんさいな えんそうです。
テンは、
ブルースハーモニカを
りょうてで もったまま、
しばらく
だまっていました。
それから、
「……モカさん」
と いいました。
「ん?」
テンは
すこし うつむいて、
ブルースハーモニカを
モカさんに
さしだしました。
「ぼくも
ジュウスケみたいに、
もっと
パワフルに ふけるように、
これ、
ちょうせいして
もらえませんか」
モカさんは、
「うーん」
と いいながら、
テンの
ハーモニカを
ひらきました。
リードを
ヘラで
ちょん。
ちょん。
と はじきます。
それから、
しばらく
ながめていました。
「テン」
「はい」
「この ハーモニカはな、
リードの あげみも、
おまえの
ふきかたに
あわせてあるんだよ」
テンは、
だまって
きいています。
「これを
ジュウスケみたいに
ちょうせいしたら、
やさしい いきでは
ならなくなるし、
オーバーブローも
オーバードローも、
いままでみたいには
でなくなるぞ」
モカさんは、
ハーモニカを
テンに かえしました。
「いじったら、
テンの おとが
でなくなっちゃうな」
テンは、
ハーモニカを
みました。
それから、
まえがみの すきまから
モカさんを
みました。
「……ぼくの おと?」
「うん」
テンは、
しばらく
ハーモニカを
みていました。
そして、
すこしだけ
わらいました。
「じゃあ、
このままで
いいです」
「うん」
テンは、
ハーモニカを
たいせつそうに
しまいました。
そして、
きたときより
ほんの すこしだけ
かおを あげて、
こうぼうを
でていきました。
そのひの
ごごです。
こんどは、
ジュウスケが
やってきました。
「モカさん」
「ん?」
ジュウスケは、
ブルースハーモニカを
さしだしました。
「おれも、
テンみたいに、
もっと
せんさいに
ふけるように、
これ、
ちょうせいして
もらえない?」
モカさんは、
「うーん」
と いいながら、
ジュウスケの
ハーモニカを
ひらきました。
リードを
ヘラで
ちょん。
ちょん。
と はじきます。
それから、
しばらく
ながめていました。
「ジュウスケ」
「ん?」
「この ハーモニカはな、
リードの あげみも、
おまえの
ふきかたに
あわせてあるんだよ」
ジュウスケは、
だまって
きいています。
「これを
テンみたいに
ちょうせいしたら、
おまえの いきじゃ
ふきづまっちゃうから、
おまえらしく
おもいっきり
ふけなくなるぞ」
モカさんは、
ハーモニカを
ジュウスケに
かえしました。
「いじったら、
ジュウスケの おとが
でなくなっちゃうな」
ジュウスケは、
ハーモニカを
みました。
「……おれの おと?」
「うん」
ジュウスケは、
しばらく
ハーモニカを
みていました。
そして、
にかっと
わらいました。
「じゃあ、
このままで いいや」
「うん」
ジュウスケは、
ハーモニカを
ポケットに いれて、
こうぼうを
でていきました。
モカさんは、
かいだんを
おりていく
ジュウスケを みながら、
くすっ。
と わらいました。
つぎのひ。
カタラズの木の
したから、
ハーモニカの おとが
きこえてきました。
ぐにゃ。
ぎゅいん。
ぷわあ。
すうっ。
ほう。
ひゅいん。
ジュウスケと
テンです。
ふたりは、
ともジャムを
していました。
ジュウスケが、
ぐにゃ。
ぎゅいん。
と、
おとを
おおきく まげます。
すると テンが、
すうっ。
ほう。
と、
その あいだを
するりと
ぬけていきます。
そして、
ひゅいん。
たかい おとが
ひとつ、
かぜの なかへ
とんでいきました。
ふたりの おとは、
ぜんぜん
ちがいます。
でも、
ふたりとも
とても
たのしそうです。
テンは、
いつもより
ほんの すこしだけ
かおを あげて
ふいていました。
その そばには、
モカさんと
ヂムも いました。
ヂムは、
ジュウスケを みて、
つぎに、
テンを みました。
そして
キリッとした
かおで
むねの
あかい ミニハーモニカを
くわえました。
ぷう。
ぴょ。
ぷぴー。
ジュウスケと
テンが、
ヂムを みました。
そして、
また
ふきはじめました。
ぐにゃ。
ぎゅいん。
すうっ。
ほう。
ぷう。
ぴょ。
みっつの
ぜんぜん ちがう おとが、
カタラズの木の したで
いっしょに
なっていました。
モカさんは、
きもちよさそうに
みっつの おとを
きいていました。

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