あるひ、
テンが
モカさんの こうぼうに
やってきました。
テンは
いつも すこし
せなかを まるめて、
ながい まえがみの
すきまから
ひとを みる、
ちょっと
はずかしがりやの
おとこのこです。
でも、
きょうの テンは
なんだか
すこし ちがいます。
いつもの ねこぜが
ほんの すこしだけ
のびているようです。
このまえ、
モカさんが
「テンの おとが
でなくなっちゃうな」
と いってくれたからです。
テンには、
モカさんが
「テンだけの おとが
あるんだよ」
と いってくれたような
きがしたのでした。
さて、
きょうの テンは、
ハーモニカの カバーを
とめる ビスを
ひとつ なくしてしまい、
モカさんに
わけてもらいに
きたのです。
「モカさん」
「おお、テン。」
「あの……
ビスを ひとつ……」
そこまで
いったときです。
テンの めが、
モカさんの
つくえの うえで
ぴたりと
とまりました。
そこには、
みたこともないほど
ながーーーーい
ハーモニカが、
おかれていたのです。
とても ほそくて、
とにかく
ながいのです。
テンは、
しばらく
その ハーモニカを
じっと みていました。
そして――
「モ、モカさん!!!」
「ん?」
「そ、それ!!
ビザニカどうの
アメイジング・シックスティー!?」
ビザニカどうは、
よく
へんなハーモニカを
つくる、
ハーモニカメーカーです。
「ああ。そうだよ。
ちょうりつを たのまれたんだ。
テン、しってるのか?」
「しってるよ!!!
むかし ほんで
よんだんだ!!
ねえ、モカさん!!
ちかくで みてもいい!?」
モカさんは
ちょっと
びっくりしました。
いつもは
ちいさな こえで
ぽつぽつ はなす テンが、
ものすごい はやさで
しゃべりはじめたのです。
「うわあああ……!
すごい!!
ほんとに あなが
60こ ある!!」
テンは
めを かがやかせて
いいました。
「これね!
はんおんずつ
おとがならんでいて、
5オクターブ
ちかくの
おんいきが
あるんだよね!」
「おお。
テン、
よく しってるなあ」
「うん!!
ずっと まえに
つくられたんだけど、
ながすぎて
おもすぎて
ふきにくいのと、
もちはこびが
たいへんで
ぜんぜん
うれなくて、
すぐに
つくられなく
なっちゃったんだって!
そりゃ
そうだよね!
おんいきが
ひろけりゃ
いいってもんじゃ
ないよね!
アハハハハハハ!」
いつもは
おとなしい
テンが、
もう とまりません。
「あっ!
モカさん!
もってみていい!?」
「ああ、いいよ。
でも、きをつけろよ。
りょうてで もたないと
まがるぞ」
「えっ!?」
テンは
あわてて
りょうてを そえました。
そして、
ながーい ハーモニカを
そーっと
もちあげました。
「おもっ」
ハーモニカは、
まんなかが
すこしだけ
たわんでいます。
「うわあ……!」
テンは、
みぎを みて、
ひだりを みて、
また みぎを みます。
「ながいなあ……」
「ながいなあ」
ふたりは
しばらく、
ながーい ハーモニカを
ながめていました。
テンが
ハーモニカを そっと
つくえに もどすと、
モカさんが
わらいながら
いいました。
「これ、
へたしたら
3、4にんで いっしょに
ふけるぞ」
テンは
ながーい ハーモニカを
じっと みました。
「ほんとだね!!」
ふたりは
また しばらく
ながめていました。
それから、
テンが
ぽつりと
いいました。
「でも、モカさん……」
「ん?」
「これ……
どこふいたら
いいのか
わかりにくいね・・・。」
「……だよな。」
モカさんが
いいました。
テンは
また
ハーモニカを
ながめました。
「でも、すごいなあ……」
モカさんは、
そんな テンを
おもしろそうに
みていました。
いつもは
すこし うつむいている テンが、
きょうは
せなかを ぴんと のばして、
めを
かがやかせています。
「テン、
おまえ、
ほんとうに
ハーモニカが
すきなんだなあ」
「うん!!!
こういう、
へんなのも!」
テンは
まんめんの えみで
こたえました。
モカさんも
うれしそうに
わらいました。
それから
ききました。
「じゃ、これ、
ほしいか?」
「いや、
あ、あの……
ほしくは ない」
「……だよな。」
そういって
モカさんと
テンは
わらいました。
それからも
テンは、
めずらしい
ながい ハーモニカを
あっちから みたり、
こっちから みたり。
モカさんに
いろんな ことを
きいていました。
やがて、
「モカさん!
きょうは
ありがとう!」
と いって、
うれしそうに
こうぼうを
でていきました。
モカさんは、
「また おいで」
と いって、
テンを
みおくりました。
そして、
しばらくして。
こうぼうの とびらが、
そーっと
ひらきました。
「ん?
あれ?
テン、どうした?」
テンは、
また すこし
せなかを まるめて、
まえがみの すきまから
モカさんを みました。
「あのー……」
「ビスを……
もらうの
わすれちゃった」
※このお話に登場する「ビザニカ堂」は架空のメーカー、「アメイジング・シックスティー」は、架空のハーモニカです。

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