かんたんな がっき?
あるひ、
モカさんの こうぼうに
ひとりの おきゃくさんが
やってきました。
りっぱな うわぎを きて、
ぴかぴかの くつを はいて、
なんだか とても
いそがしそうな ひとでした。
てには、
ケースに きちんと おさまった
クロマチックハーモニカ。
おきゃくさんは
つくえの まえに たつと、
すこし ふきげんそうに
いいました。
「これ、
ふりょうひんだろう」
モカさんは
「おや」
と いいました。
おきゃくさんは
ケースを ひらいて、
ハーモニカを
つくえに おきました。
「まんなかの おとは
かんたんに でるんだ」
「でも
ていおんと こうおんに いくと、
とたんに おかしくなる」
「こんな
かんたんな がっきで、
おとが でないんじゃ
こまるんだよ」
モカさんは
ハーモニカを
そっと てに とりました。
「そうかい」
そして、
そのまま
くちもとへ もっていって、
ぷう。
ぴい。
ぷう。
ぴい。
まっすぐで、
きれいな ドレミが
こうぼうに ひびきました。
ていおんも、
こうおんも、
ちゃんと
なっています。
おきゃくさんは
めを まるくしました。
「おお……」
それから すぐに、
ちょっと いそいだように
いいました。
「いい おとに なった!
あんた、いい うでだね」
モカさんは
ちいさく わらいました。
ハーモニカには
なにもしていないからです。
でも こうこたえました。
「こうえいです。
ありがとう」
それから
ハーモニカを
そっと かえしながら、
やさしく いいました。
「ていおんは、
あくびを するときみたいに
のどを ひろげると、
ひびきやすいよ」
「こうおんは、
くちぶえで
たかい おとを だすみたいに」
おきゃくさんは
「……あくび?」
と いいました。
モカさんは
ちいさく うなずきました。
「おとによって、
きもちよく でる
くちや のどの かたちが
ちょっとずつ ちがうんだ」
「むずかしく いうと、
フォルマント」
「くちや のどの
ひびきかたのことだよ」
おきゃくさんは
「ふぉる……」
と いいかけて、
ちょっと だまりました。
それから
ほんとうに
ちいさく
「ふわぁー」
と あくびを
してみました。
つくえの よこで
ヂムが
じっと みています。
おきゃくさんは
ハーモニカを かまえて、
じぶんで ふいてみました。
ぽうん。
ていおんが
やわらかく
ひびきました。
おきゃくさんは
ちいさく
「おや」
と いいました。
こうおんは、
くちぶえで
たかい おとを だすように
ふいてみました。
こんどは、
こうおんも
さっきより
すなおに
なりました。
おきゃくさんは
「……なるほど」
と いいました。
ふりょうじゃ
なかったのかな?
おきゃくさんは
こころのなかで
おもいました。
みみたぶが、
すこしだけ
あかく なっていました。
よこで ヂムが
そんな おきゃくさんの かおをみて、
おなじ かおを
してみました。
きゅっと くちを むすんで、
ちょっとだけ
すました かおです。
モカさんは
それをみて、
くすっと わらいました。
おきゃくさんの
さっきまでの
おこった かおは、
もう ありませんでした。
おきゃくさんは
クロマチックハーモニカを
ケースに しまうと、
ちいさく あたまを さげました。
「……しつれいしました」
それから、
すこし てれたように
つづけました。
「やっぱり、
せんもんかに
みてもらうもんだね」
「また なにか あったら、
ここへ くるよ」
モカさんは
やさしく うなずきました。
「いつでも
どうぞ」
おきゃくさんは
そのまま
こうぼうを あとにしました。
きしきし。
かいだんを おりて、
しぃちゃんの みせを ぬけて、
おかの みちへ
でていきます。
その うしろすがたは、
さっきより
すこしだけ
やわらかく なっていました。
モカさんは
つくえの うえを かたづけながら、
ちいさく わらいました。
すると ヂムが、
ミニハーモニカを かまえて、
「ふわぁー」
と あくびをしてから、
ぷう。
と ふきました。
でも でてきた おとは、
やっぱり ちいさくて、
なんだか
とても かわいい おとでした。
こうぼうには
そのひも、
まっすぐな ドレミと、
ちいさな まねっこの おとが
やさしく ひびいていたのでした。

コメント